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「江戸時代の位牌」

2023.04.30

季節は移り間もなく「八十八夜」。立春から数えて八十八日目のこの日は、「茶摘み」の歌にもある通り夏も近づく頃。日増しに初夏の気配を感じるようになっていますね。★この時期からお盆までは古いお位牌を過去帳にまとめるご依頼なども多くなります。ご先祖の戒名を過去帳にまとめる場合は、仏壇のお位牌や寺院にある戒名帳などを参考にして作成しますが、稀に古いお位牌をお預かりすることがあります。画像は仏壇に保管されていた大変古い位牌の札板で、煤(すす)で黒くなった状態のものです。このような状態でも順調に煤洗いができれば戒名や没年月日を確認することができます。洗浄の結果、最も古い右側の札板は元文三年(1738年)のものであることが分かりました。中央は宝暦年間、左側は安永年間に作られたお位牌です。台座の部分は欠損しており経年による傷みは見られるものの、約300年前のお位牌も形状や戒名の配列などについては現在のお位牌と基本的には同じであることが分かります。この時代の人々は普段の生活の中でどのようにご先祖と向き合ったのでしょうか。古くから追善という意識が人々の暮らしに浸透して受け継がれてきたとされていますが、お位牌が300年近くの長きにわたり大切に安置されていたことにはただ驚くばかりです。(画像はご依頼者様のご了解をいただいて掲載しています)

「書体合わせ」

2023.04.20

松江は青空の広がる朝を迎えました。全国的に穏やかな一日になりそうですね。★美しい花を咲かせた桜が散り始める頃から気温は上昇して、いよいよ木々の緑も初夏の色に変わり始めています。今日は暦の上では「穀雨(こくう)」。これは「百穀を潤す春の雨」という意味で、この時期以降に降る雨は徐々に雨量が多くなるので植物の種を蒔いておくと成長の頃には雨に恵まれすくすく育つとされています。いよいよ農家では田植えの準備などで慌ただしくなる時期ですね。★連休前のこの時期はお位牌の戒名入れなどが集中するので、私たちの工房も慌ただしくなります。画像は以前に作られたお位牌に追加で戒名を彫刻しているものです。どちらで作られたお位牌か分かりませんが、すでに彫られているお位牌に追加で彫刻する場合は書体を合せる必要がありますので細心の注意を払います。ほとんどの職人は基本的に中国の古典書法を学ぶことから、中国唐代の書家である欧陽詢、顔真卿、柳公権などの書風に近いものになる傾向があるようです。それでもやはり職人それぞれに個性がありますので、文字の筆画(点と線の動き)や結構(文字の構成)を手掛かりに彫刻する文字をイメージします。ただ、30年以上携わっていてもなお難解なもので、彫らせていただくたびに新たな学びがあると感じます。★明日以降は雲の多い日もありそうですが、週末を通して天候の大きな崩れはなさそうですね。

「清浄明潔」

2023.04.11

今日は穏やかな朝を迎えています。日中の気温も上昇しそうですね。★暦の上では「清明(せいめい)」を迎えました。これは「清浄明潔(しょうじょうめいけつ)」を略したもので、暦便覧には「万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれるなり」と記されています。穏やかな気候とともに大自然の営みが活発になり、草木も生き生きと成長する頃と意訳されます。この時期以降には普段の生活の中でも寒さを感じることはほとんどなくなって、何をするにも良い季節になったように感じますね。★爽やかな春風が吹くこの時期になると、札所巡りや寺院などを巡っての供養が行われるようになります。松江では「六地蔵巡り」や「三十三観音巡り」などの札打ちが行われており、特に「松江六地蔵」は松江築城(慶長十二年・1607)以前からあったと言われ、古くから故人の冥福を祈り多くの人々が巡礼されてきたようです。「松江六地蔵」の起源については諸説あるようですが、地誌『雲陽大数録』には大庭社(神魂神社)から佐陀社(佐太神社)へイザナミノミコトの御神輿が巡幸されたさい、道筋で休み奉った所に地蔵を安置したと記されています。平安末期以降広く普及したとされるお地蔵さまが今もなお大切に祀られていることは、多くの人々の心の支えになってきた証なのかもしれませんね。★早くも玄関口ではツバメの姿を見かけるようになっています。日中には強い日差しも感じるようになりましたね。

「お花見」

2023.04.01

いよいよ桜も見頃を迎えて、各地で花見の催しが行われています。先週末には私たちの自治会でも花見会が開催され大いに賑わいました。残念ながら工房の仕事を残している私は皆さんとの花見には参加できませんでしたが、数日前にたまたま通り掛かった近くの神社の境内に咲く桜を堪能することができました。三色団子もお酒もない一人だけの花見でしたが、見頃を迎えた桜の放つ上品な芳香に癒されて帰りました。★穏やかな春の日に、満開の桜の花の下でお弁当やお酒を持ち寄って人々が集う習慣はいつ頃からあったのでしょうか?古い書物によると、すでに平安時代にはお花見の習慣があったようで、お祓い神事や宗教的な行事にその起源があるとされています。意外な感じがしますね。日本古来の神々の中には「サ」と呼ばれる山(田・稲)の神がおられ、「クラ」はその神が鎮まる座を意味することから、これらの神々が鎮座する木を「サクラ」と呼び、この木にお供え物をして豊作を祈るようになったそうです。サクラの木の下で宴を催すのはこれらの神事がのちに変化し、現在のような桜の花を観賞するという形になったと考えられています。お花見も大自然の営みの中で日本人が受け継いできた大切な文化のひとつと言えるのではないでしょうか。★週末は好天に恵まれる予報になりました。気温も上昇しそうですね。